自律型食品サプライチェーン研究でUbiBot WS1を活用|Cambridge大学の温湿度記録

食品サプライチェーンでは、調達、在庫、輸送、温度管理などの情報が複数の企業やシステムに分散しています。こうした情報をソフトウェアエージェントが連携して処理し、状況に応じて判断する「自律型サプライチェーン」が研究されています。

ケンブリッジ大学とFetch.aiの研究チームは、生鮮食品を想定した多智能体システムのプロトタイプを構築しました。その環境データ収集に使用されたのが、UbiBot WS1です。

研究では、WS1とGPSアプリを自転車に搭載し、英国ケンブリッジ市内のルートで温度・湿度・照度と位置情報を収集しました。取得したデータは、食品配送を管理するプロトタイプ上でリアルタイムデータのように再生されています。

ケンブリッジの食品サプライチェーン研究で環境センサーとGPSを活用するイメージ

自律型食品サプライチェーンと環境データ活用のイメージ

研究概要

項目 内容
論文名 On implementing autonomous supply chains: A multi-agent system approach
掲載誌 Computers in Industry, Volume 161, 104120
公開年 2024年
DOI 10.1016/j.compind.2024.104120
主な研究機関 ケンブリッジ大学 Institute for Manufacturing、Fetch.ai
対象 食肉を想定した自律型食品サプライチェーンのプロトタイプ
データ収集場所 英国ケンブリッジ市内の複数地点間
UbiBot製品 UbiBot WS1
WS1で取得した項目 温度、相対湿度、照度
位置情報 スマートフォンのGPSアプリで経度・緯度・標高を取得
データの利用方法 校正後にCSVへ保存し、プロトタイプ内で配送中のデータとして再生
主な成果 環境・位置データと複数のソフトウェアエージェントを統合した食品サプライチェーン管理方式を実装

※本研究は、自律型サプライチェーンの技術的な実装方法を検証したプロトタイプ研究です。実際の食肉を冷蔵車で輸送した試験ではなく、WS1が食品の中心温度を測定したものでもありません。

1.研究された「自律型食品サプライチェーン」とは

研究チームが構築したA2SC(Agent-based Autonomous Supply Chain)は、サプライチェーンを構成する組織や業務を複数のソフトウェアエージェントとして表現するシステムです。

プロトタイプには、主に次の役割が設定されました。

  • 供給者
  • 卸売事業者
  • 小売事業者
  • 物流事業者
  • 3PL事業者
  • システム管理者

各エージェントが情報を交換し、仕入先の検索、注文、在庫更新、配送手配、輸送状況の確認などを進めます。

Web画面には、注文、物流ルート、温湿度・照度のグラフ、エージェント間の通信内容を表示する機能が組み込まれました。ケンブリッジ大学機関リポジトリ掲載論文

2.UbiBot WS1はどのように使われたか

研究チームは、ケンブリッジ市内の複数地点を供給者、卸売事業者、小売事業者の所在地に見立てました。

自転車には次の機器が取り付けられています。

  • 温度・湿度・照度を取得するUbiBot WS1
  • GPS記録アプリを使用するスマートフォン

自転車で設定地点間を移動し、周囲の環境条件と位置情報を時系列データとして収集しました。

自転車に温湿度・照度センサーとGPSスマートフォンを搭載したケンブリッジ大学の研究方法

自転車に環境センサーとGPS端末を搭載した研究データ収集のイメージ

論文では、移動中の環境・位置データ点を5秒ごとに取得したと説明されています。取得項目は、温度、湿度、照度、経度、緯度、標高です。

ただし、現行の日本向けWS1製品仕様では、最小検出間隔と最小クラウド同期間隔は1分と案内されています。そのため、論文に記載された5秒間隔を現行製品の標準クラウド設定として再現できる、という意味ではありません。研究条件を再現する場合は、使用機器、取得方法、ファームウェアおよび設定を個別に確認する必要があります。UbiBot WS1日本公式製品情報

3.実測データをリアルタイムのように再生

本研究では、実際の冷蔵車に食肉を積載して無線通信を行ったわけではありません。

研究チームは、自転車走行で取得したデータを校正してCSV形式で保存し、その後、プロトタイプから一定の時間順序で読み出しました。これにより、配送車両から環境データと位置情報が連続的に送られてくる状況を再現しています。

システム画面では、次の情報を組み合わせて表示しました。

  • 配送ルートと現在位置
  • 温度の時系列変化
  • 相対湿度の時系列変化
  • 照度の時系列変化
  • エージェント間のメッセージ
  • 注文および配送状況

ここで重要なのは、WS1がサプライチェーン全体を自律制御したわけではないことです。WS1は、システムが状況を判断するための環境データを提供する役割を担いました。

CSVに保存した温湿度・照度・GPSデータを食品サプライチェーンシステムで可視化するイメージ

温湿度・照度・位置データを多智能体システムで再生するイメージ

4.温湿度データとGPSを組み合わせる意味

GPSだけで把握できるのは、車両や荷物が「どこにあるか」です。一方、温湿度センサーを組み合わせると、その場所で「どのような環境に置かれていたか」を確認できます。

例えば、温度上昇が発生した場合でも、位置情報と組み合わせることで次のような分析がしやすくなります。

  • 積み込み中に温度が上昇した
  • 特定の配送区間で高温になった
  • 停車時間が長い地点で温度が変化した
  • 荷卸し時の扉開放と環境変化が重なった

環境データと物流データを同じ時刻軸で管理することは、異常原因の特定や配送方法の改善に役立ちます。

ただし、輸送空間の温度と食品自体の温度は同じではありません。食品の中心温度、表面温度、梱包内部温度、荷室空気温度では、変化の速さや意味が異なるため、目的に応じた測定位置が必要です。

5.研究から分かるWS1の役割

UbiBot WS1は、温度、相対湿度、照度を記録できるWi-Fi対応の環境センサーです。日本向け製品ページでは、次の仕様が案内されています。

  • 温度測定範囲:-20~60℃
  • 湿度測定範囲:10~90%RH
  • 照度測定
  • 最大300,000件の内部記録
  • 2.4GHz Wi-Fi対応
  • 電池またはUSB給電
  • 外部温度プローブ接続
  • クラウド、アプリ、Webからのデータ確認
  • 測定値や通信状態に基づくアラート

研究事例のように、環境データを位置情報や業務システムと組み合わせる場合、CSV出力やAPIなどのデータ利用方法も選定上の重要なポイントになります。

一方、WS1本体は防水仕様ではありません。配送車、冷蔵庫、結露が発生する場所などで使用する場合は、本体の保護、外部プローブの採用、ケーブルの取り回しを含めて設計してください。

6.日本の食品物流へ応用する際の注意点

冷蔵配送車で荷室環境センサーと食品用温度プローブを使い分ける温度管理

食品物流で環境温度と商品温度を分けて管理するイメージ

厚生労働省が公開する冷凍・冷蔵商品販売事業者向けのHACCP手引書では、保管庫内温度の確認・記録に加え、可能な範囲で配送車両の温度を記録することが示されています。

また、問題が発生した場合は、商品温度の確認、別設備への移動、責任者への報告、廃棄、設備修理などの対応を行い、その内容を記録する例が掲載されています。厚生労働省「冷凍・冷蔵商品販売事業者に向けたHACCPの考え方を取り入れた衛生管理の手引書」

研究成果を実際の食品物流へ応用する場合は、少なくとも次の点を決める必要があります。

測定対象

  • 荷室の空気温度
  • コンテナ内部温度
  • 食品表面温度
  • 食品中心温度
  • 積み込み・荷卸し場所の環境

センサー位置

冷気吹出口の直前、扉の近く、冷却機から離れた位置では温度が異なることがあります。事前に温度分布を調べ、配送する食品を代表できる位置を選びます。

通信方法

WS1はWi-Fi対応製品です。走行中にクラウドへ送信するには、車載Wi-Fiやモバイルルーターなどの通信経路が必要です。

通信が常時確保できない場合は、内部記録を利用して、通信復旧後にデータを送信できる運用を検討します。ただし、通信停止中はクラウドから即時通知できないため、リアルタイム警報が必要な用途では通信経路の冗長化も必要です。

校正と精度確認

食品の安全性や取引条件の確認に使用する場合は、必要な精度、校正周期、許容差を事前に定めます。厚生労働省の手引書でも、冷蔵・冷凍庫の温度計について定期的に正しい温度を示すか確認し、記録することが示されています。

逸脱時の対応

アラートを送るだけでなく、次の対応を標準作業手順として定めます。

  1. センサーと通信状態を確認する
  2. 別の計器で温度を再確認する
  3. 必要に応じて食品温度を測定する
  4. 商品を隔離または別の保冷設備へ移す
  5. 責任者へ報告する
  6. 原因と対応結果を記録する

7.この研究事例から得られる実務上のヒント

本研究の価値は、単に温湿度を記録した点ではなく、環境データを注文、在庫、輸送、位置情報と同じ仕組みの中で扱った点にあります。

日本で同様のシステムを検討する場合は、最初から完全自律化を目指す必要はありません。

まずは次の段階から始められます。

  1. 倉庫や配送車の温度を自動記録する
  2. 温度逸脱を担当者へ通知する
  3. 配送ルートと温度履歴を照合する
  4. 商品、車両、センサーのIDを関連付ける
  5. データを在庫管理や品質管理システムへ連携する
  6. 蓄積したデータを配送計画や異常予測へ活用する

UbiBot WS1は、小規模な実証試験や環境データの収集を始めたい場合の選択肢になります。実運用では、測定範囲、防水・結露対策、通信環境、外部プローブ、校正、アラート対応を含めて構成を判断してください。

よくある質問

この研究では実際に食肉を輸送しましたか

いいえ。論文では、実際の冷蔵車による食肉輸送ではなく、自転車にWS1とGPS記録用スマートフォンを搭載してデータを収集したと説明されています。

WS1は食品の中心温度を測定しましたか

いいえ。研究で測定したのは、自転車周辺の温度、湿度、照度です。食品の中心温度や梱包内部温度を測定したものではありません。

GPS情報もWS1で取得したのですか

いいえ。位置情報はスマートフォンのGPSアプリから取得されました。WS1は温度、湿度、照度の環境データ収集に使用されています。

研究ではデータをリアルタイム送信しましたか

自転車走行時に取得したデータをCSVへ保存し、後からプロトタイプ内でリアルタイムデータのように再生しています。実際の配送中にWS1からクラウドへ常時送信した試験ではありません。

WS1を設置すればHACCP対応になりますか

センサーの導入だけでHACCP対応が完了するわけではありません。管理基準、測定位置、確認方法、記録保存、校正、逸脱時の対応を衛生管理計画に組み込む必要があります。

食品配送中にWS1を利用できますか

利用条件が製品仕様に合い、Wi-Fi、電源、結露対策、本体保護、測定位置を適切に設計できる場合は検討できます。低温域や水分の多い環境では、外部プローブを荷室に配置し、本体を保護された場所に設置する構成も候補になります。

まとめ

ケンブリッジ大学とFetch.aiの研究チームは、自律型食品サプライチェーンのプロトタイプを構築し、UbiBot WS1で取得した温度・湿度・照度データを物流情報と統合しました。

研究では、自転車とスマートフォンを利用してケンブリッジ市内の実環境データを収集し、CSVに保存したデータをプロトタイプ上でリアルタイムのように再生しています。

この事例は、WS1がサプライチェーンを自動制御したことを示すものではありません。一方で、環境センサーのデータを位置、注文、在庫、配送業務と関連付けることが、自律化や異常原因の分析に向けた重要な基盤になることを示しています。

日本の食品物流へ応用する場合は、Wi-Fi通信、本体の防水保護、外部プローブ、校正、測定位置、食品温度との違い、逸脱対応を事前に設計することが重要です。

参考資料

  1. Xu, L. et al., “On implementing autonomous supply chains: A multi-agent system approach,” Computers in Industry, 2024(ケンブリッジ大学機関リポジトリ)
  2. 論文DOI:10.1016/j.compind.2024.104120
  3. UbiBot英語版 Academic Research「UbiBot WS1 Perishable Food Supply Chain Monitoring Study Cambridge」
  4. UbiBot WS1日本公式製品情報
  5. 厚生労働省「冷凍・冷蔵商品販売事業者に向けたHACCPの考え方を取り入れた衛生管理の手引書」
  6. 農林水産省「定温管理流通加工食品の日本農林規格」

※製品仕様、クラウド機能、通知方法、対応外部センサーは変更される場合があります。公開または導入前に、日本公式サイトの最新仕様をご確認ください。

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