土、藁、竹、木材などの自然由来材料は、建築時の環境負荷を抑えられる可能性がある一方、実際の建物で温度や湿度を安定させられるか、長期的に検証する必要があります。
北京交通大学、ETH Zurichなどの研究チームは、中国甘粛省天水市に実大の農村住宅を建設し、流し込み土と藁断熱材を組み合わせた外皮の熱湿気性能を調査しました。
室内外の温度・相対湿度を8か月間記録するために使用されたのが、UbiBot GS1-AL4G1RSです。取得データは季節ごとの室内環境評価に加え、EnergyPlusモデルの校正や運用時のエネルギー・炭素排出量推定にも利用されました。
流し込み土と藁を用いた実大建築の長期温湿度モニタリング
研究概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 論文名 | Beyond Low-Carbon Buildings: implementation, hygrothermal performance, and LCA of poured earth and straw construction in rural China |
| 掲載誌 | Energy and Buildings, Volume 360, Article 117385 |
| 公開年 | 2026年 |
| DOI | 10.1016/j.enbuild.2026.117385 |
| 主な研究機関 | 北京交通大学、ETH Zurich、ヴェルサイユ国立高等建築学校、Paris-Saclay大学、Empa |
| 建設・計測場所 | 中国甘粛省天水市の農村地域 |
| 対象建築 | 軽量鉄骨・流し込み土・藁を組み合わせた実大住宅 |
| UbiBot製品 | UbiBot GS1-AL4G1RS |
| 測定項目 | 室内外の温度・相対湿度 |
| センサー台数 | 室内7台、屋外1台 |
| 記録間隔 | 5分 |
| 計測期間 | 8か月 |
| データの用途 | 季節別の温湿度評価、熱的時間遅れの分析、EnergyPlusモデル校正、運用時炭素排出量の推定支援 |
| 主な研究成果 | 室内温湿度の変動抑制、外皮の熱的緩衝効果、従来型建築とのライフサイクル評価 |
※論文でいう“poured earth”は、型枠へ流し込んで施工する土系材料です。本記事では検索性を考慮して「土壁」と表現しますが、日本の伝統的な小舞下地の土塗壁と同一の工法ではありません。
1.実験室ではなく実大住宅を計測
自然素材の建築性能は、材料単体の試験だけでは十分に評価できません。
実際の建物では、壁の方向、日射、外気温、降雨、換気、施工状態などが組み合わさるためです。本研究では、中国の寒冷地域に実大住宅を建設し、現地環境下で性能を調査しました。
外壁は、主に次の材料を組み合わせた構成です。
- せっこうボード
- 藁断熱材
- OSB
- 透湿性を持つ膜材
- 木製スタッド
- 流し込み土
- 竹メッシュ
- セメントモルタル仕上げ
藁断熱層と流し込み土層はいずれも140mm厚で、外壁の熱貫流率は0.30W/(m²・K)と報告されています。研究事例の解説
2.UbiBot GS1の設置方法
研究では、GS1-AL4G1RSを室内の異なる方位や機能区画へ7台設置しました。さらに、屋外条件を把握するため、隣接住宅の中庭に1台を設置しています。
室内7地点と屋外遮陰地点における温湿度センサー配置
屋外センサーは直射日光による加熱を避けるため、日陰となる位置に設置されました。屋外気温を測るセンサーへ日射が直接当たると、周囲の空気温度より高い値を示す可能性があるためです。
温度と相対湿度は5分間隔で記録され、計測は8か月間継続されました。
計測中の条件は次のとおりです。
- 建物は無人
- 扉と窓は閉鎖
- 暖房・冷房は不使用
- 機械換気は不使用
居住者による窓開閉、発熱、調理、加湿などの影響を抑え、建物外皮自体の受動的な熱湿気性能を評価するための条件です。
3.GS1が測定した項目と、測定していない項目
本研究におけるUbiBot GS1の役割は、室内外の空気温度と相対湿度を継続的に記録することでした。
一方、次の項目はGS1が直接測定したものではありません。
| 評価項目 | 使用された方法 |
|---|---|
| 室内外の温度・相対湿度 | UbiBot GS1-AL4G1RS |
| 壁体の熱流 | 別途設置した熱流センサー |
| 壁体内の熱移動 | 熱流計測と温度データによる分析 |
| エネルギー消費量 | EnergyPlusによるシミュレーション |
| 炭素排出量 | エネルギー計算およびライフサイクル評価 |
| 材料内部の含水率 | GS1による直接測定ではない |
室内温湿度計測と壁体熱流計測の役割の違い
熱流センサーは壁の東・南・西・北面と複数の深さへ設置され、5秒間隔で記録しました。GS1による5分間隔の室内外温湿度記録とは、測定機器も目的も異なります。
したがって、GS1単体で壁体内部の含水率、熱流、断熱性能、炭素排出量を測定したと解釈するのは適切ではありません。
4.8か月の記録から分かったこと
研究チームは、冬、春の移行期、夏から代表的な7日間を選び、室内外の温湿度変動を比較しました。
室温変動を緩和
代表期間における屋外の温度変動幅は14.7~19.6℃だったのに対し、室内は1.7~4.4℃に抑えられました。
冬季には屋外最低温度が-16℃まで低下しましたが、室内最低温度は-2.1℃でした。夏季には屋外温度が34℃に達した一方、室内温度は22~28℃の範囲で推移したと報告されています。
熱が伝わるまでの時間を遅らせる
外気温の変化が室内へ現れるまでの平均的な時間遅れは、冬季5.3時間、春季4.3時間、夏季4.0時間でした。
土層の熱容量と藁層の断熱性を組み合わせた外皮が、屋外の急激な温度変化を緩和したと考えられます。
室内湿度の変動を抑制
春の降雨期には屋外相対湿度が93%まで上昇した一方、室内湿度は比較的緩やかに変化しました。
論文では、計測期間の85%で室内相対湿度が40~60%RHの範囲に保たれたと報告されています。
ただし、この結果は無人・閉鎖・空調停止という実験条件で得られたものです。実際の住宅では、居住人数、換気、調理、入浴、暖冷房などによって温湿度条件が変わります。
5.実測データをEnergyPlusモデルの校正に活用
長期温湿度データから建物モデル校正・環境評価へつなげる流れ
建物の年間エネルギー消費量や運用時の炭素排出量を評価するには、シミュレーションモデルが実際の建物挙動を適切に再現できることが重要です。
研究チームは、GrasshopperのLadybugプラグインを利用してEnergyPlusモデルを作成しました。GS1で測定した室内温度とシミュレーション結果を比較し、NMBEやCVRMSEなどの指標を用いてモデルを校正しています。
校正後のモデルから、暖房、冷房、照明、給湯のエネルギー需要を推定し、地域の電力排出係数を用いて運用時の炭素排出量を計算しました。
つまり、GS1が炭素排出量を計算したのではありません。GS1は、シミュレーションを実際の建物挙動へ近づけるための時刻付き温湿度データを提供しました。
6.低炭素性能は別の評価と組み合わせて判断
研究では、建設材料の製造、輸送、施工と、建物使用時のエネルギーを含めたライフサイクル評価も行われました。
同等の熱性能を持つ従来型のれんが・コンクリート構造と比較した場合、軽量鉄骨・流し込み土・藁の構成は、正味の材料由来炭素排出量を28%削減したと報告されています。
ただし、この数値は特定の材料構成、輸送条件、地域、耐用年数および計算条件に基づく研究結果です。日本の建築へそのまま適用できる削減率ではありません。
温湿度記録だけで低炭素性能を証明することもできません。実測、熱性能計算、エネルギーシミュレーション、材料のライフサイクル評価を組み合わせて判断する必要があります。
7.日本の土壁・自然素材建築に活かせるポイント
日本でも、土壁の吸放湿特性や温湿度環境に関する研究が行われています。日本建築学会には、通年計測による土壁の吸放湿特性を扱った研究が収録されています。日本建築学会「湿式住宅の温湿度環境性能に関する研究―通年に亘る土壁の吸放湿特性」
また、国土交通省国土技術政策総合研究所・建築研究所の事業資料でも、土、藁、竹などを用いた土塗壁について、蓄熱・調湿性能と断熱・気密・換気設計を組み合わせる重要性が示されています。建築研究所「土塗壁木造住宅の高断熱化普及促進事業」
日本で長期計測を行う場合は、次の条件を記録します。
- センサーの設置場所と高さ
- 方位と日射条件
- 窓・扉の開閉
- 換気設備の運転状態
- 暖房・冷房・加湿設備の運転
- 居住人数と在室時間
- 降雨や外気温湿度
- 改修・補修・用途変更
- センサー交換と校正履歴
居住中の建物では、外皮性能と生活行動の影響を分けて分析できるようにすることが重要です。
8.建築環境研究におけるGS1-AL4G1RSの活用
日本公式サイトによると、GS1-AL4G1RSは温度・湿度・照度センサーを搭載し、Wi-Fiとモバイル通信によるデータ同期に対応しています。
主な仕様は次のとおりです。
- 動作環境:-20~60℃、10~90%RH(結露なし)
- 2.4GHz Wi-Fiおよびモバイル通信
- 最大300,000件の内部記録
- 4インチLCD
- 2500mAhリチウムイオンバッテリー
- Type-CまたはDC電源
- RS485外部センサー対応
- IP65相当の防じん・防水設計
長期研究では、内部記録とネットワーク接続を組み合わせることで、現地訪問だけに頼らずデータを管理しやすくなります。UbiBot GS1-AL4G1RS日本公式製品情報
ただし、IP65であっても長期屋外設置に追加保護が不要という意味ではありません。雨、直射日光、結露、積雪、高湿度を避け、防雨ボックスや通風可能な日射遮蔽を検討してください。
また、研究で使用された機器構成、通信条件、校正状態が市販時の標準条件と完全に同じとは限りません。研究を再現する場合は、論文の方法と最新製品仕様を個別に確認する必要があります。
9.建築温湿度モニタリングの設計例
| 測定目的 | 推奨する測定点 |
|---|---|
| 外皮による室温安定性の確認 | 室内中央付近と日射・設備の影響が少ない外気基準点 |
| 方位による違いの確認 | 東・南・西・北側の代表室 |
| 上下温度差の確認 | 同一区画の床付近・居住域・天井付近 |
| 壁体内部の結露リスク評価 | 壁内温湿度または含水率に対応した専用センサー |
| 熱流の評価 | 熱流計と表面温度センサー |
| シミュレーション校正 | 室内外温湿度、設備運転、日射、必要に応じてエネルギー計測 |
室内用温湿度ロガーだけで、壁体内結露や材料含水率を直接判断することはできません。研究目的に応じて、熱流計、表面温度、壁内温湿度、気象データなどを追加してください。
よくある質問
この研究で使用されたUbiBot製品は何ですか
論文では、UbiBot GS1-AL4G1RSが室内外の温度・相対湿度記録に使用されています。
GS1は何台設置されましたか
室内の異なる方位・区画に7台、屋外の遮陰された中庭に1台の合計8台です。
どのくらいの期間、何分間隔で測定しましたか
現地計測は8か月間実施され、温度と相対湿度は5分間隔で記録されました。
GS1は壁体内部に埋め込まれましたか
論文では、GS1は室内外の環境測定に使用されています。壁体内部の熱流は、別の熱流センサーによって測定されました。
GS1で壁の含水率を測定できますか
本研究のGS1測定項目は空気温度と相対湿度であり、壁材料の含水率を直接測定したものではありません。材料含水率を評価する場合は、目的に合った専用測定器が必要です。
GS1が炭素排出量を計算したのですか
いいえ。GS1の実測データはEnergyPlusモデルの校正に使用されました。炭素排出量は、シミュレーションとライフサイクル評価によって計算されています。
屋外へGS1をそのまま設置できますか
長期屋外計測では、IP等級だけで判断せず、直射日光、雨、結露、積雪を避ける保護が必要です。周囲の空気が通過できる日射遮蔽や防雨ボックスを使用し、設置後に測定値と通信状態を確認してください。
まとめ
北京交通大学、ETH Zurichなどの研究チームは、軽量鉄骨、流し込み土、藁断熱材を組み合わせた実大農村住宅を建設し、UbiBot GS1-AL4G1RSを用いて8か月間の温湿度計測を行いました。
室内7台と屋外1台から得た5分間隔のデータにより、季節ごとの室内温湿度の安定性や、外気変動に対する建物外皮の緩衝効果が評価されました。実測室温はEnergyPlusモデルの校正にも使用されています。
一方、GS1が直接測定したのは室内外の温度・相対湿度です。壁体熱流、材料含水率、エネルギー消費量、炭素排出量は、それぞれ別のセンサーや解析によって評価されました。
建築環境研究でGS1を活用する場合は、測定目的、センサー配置、屋外保護、通信、電源、校正、設備運転履歴を一体として設計することが重要です。
参考資料
- Li, J. et al., “Beyond Low-Carbon Buildings: implementation, hygrothermal performance, and LCA of poured earth and straw construction in rural China,” Energy and Buildings, 2026
- UbiBot Academic Research「Beijing Jiaotong University and ETH Zurich Use UbiBot GS1」
- UbiBot GS1-AL4G1RS日本公式製品情報
- 日本建築学会「湿式住宅の温湿度環境性能に関する研究―通年に亘る土壁の吸放湿特性」
- 日本建築学会「兵庫県産左官材料の熱・湿気特性に関する考察―土壁の断熱・吸放湿性能」
- 建築研究所「土塗壁木造住宅の高断熱化普及促進事業」
- ETH Zurich「Climate-friendly renovations using straw and hemp」
※製品仕様、通信方式、対応する外部センサー、クラウド機能は変更される場合があります。公開または研究計画策定前に、論文原文と日本公式サイトの最新仕様をご確認ください。