オフィスや商業施設でCO₂モニターを導入するとき、「1,000ppm以下なら法令に適合している」「クラウドセンサーがあれば法定測定は不要」と考えてよいのでしょうか。
結論からいえば、建築物環境衛生管理基準に基づく空気環境測定と、IoTセンサーによる連続監視は目的が異なります。
法定測定は、定められた位置、方法、周期で建物の維持管理状況を確認するものです。一方、IoT監視は、法定測定だけでは把握しにくい時間帯や部屋ごとの変化を継続的に可視化し、換気不良などの早期発見を支援します。
建築物環境衛生管理基準に基づきオフィスのCO2と温湿度をIoT監視するイメージ
要点
- CO₂の管理基準は1,000ppm以下
- 空気調和設備がある場合、温度は18~28℃、相対湿度は40~70%
- 特定建築物の空気環境測定は、原則として2か月以内ごとに1回
- 測定は通常の使用時間中、各階の居室中央部、床上75~150cmで行う
- IoT監視は法定測定の代替ではなく、日常管理を補完する手段
- 多点監視では、代表性のある設置場所とセンサーの精度管理が重要
- CO₂上昇時の換気確認や担当者への通知まで運用手順に含める
1.建築物環境衛生管理基準とは
建築物環境衛生管理基準は、「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」、通称「建築物衛生法」または「ビル管理法」に基づく維持管理基準です。
対象には空気環境だけでなく、給排水、清掃、ねずみ・昆虫等の防除なども含まれます。
基準の適用対象となる「特定建築物」は、事務所、店舗、百貨店、旅館、興行場などの特定用途に使用され、対象部分の延べ面積が原則3,000㎡以上の建築物です。学校教育法第1条に規定される学校は8,000㎡以上が面積要件となります。
用途や共用部分の扱いによって判断が異なるため、該当性が不明な場合は管轄の保健所へ確認してください。
特定建築物以外でも、多数の人が利用する建築物には、同基準に従った維持管理に努めることが求められています。厚生労働省「建築物環境衛生管理基準について」/「特定建築物の定義に関するQ&A」
2.CO₂・温湿度の管理基準
空気調和設備を設けている建築物では、居室の空気環境を次の基準におおむね適合させる必要があります。
| 測定項目 | 管理基準 |
|---|---|
| 二酸化炭素(CO₂) | 1,000ppm以下 |
| 一酸化炭素(CO) | 6ppm以下 |
| 温度 | 18℃以上28℃以下 |
| 相対湿度 | 40%以上70%以下 |
| 気流 | 0.5m/s以下 |
| 浮遊粉じん | 0.15mg/m³以下 |
| ホルムアルデヒド | 0.1mg/m³以下(0.08ppm以下) |
機械換気設備のみを設けている場合は、温度・湿度を除く所定の項目が対象になります。
また、一般的な家庭用ルームエアコンは、室内の空気を冷暖房するだけで外気を取り入れない機種もあります。厚生労働省は、外気導入機能のない設備について、建築物衛生法上の空気調和設備または機械換気設備には該当しないと説明しています。
つまり、エアコンが稼働していても、CO₂濃度の上昇を防げるとは限りません。CO₂の傾向を確認し、必要に応じて外気導入量や換気設備の運転状態を見直す必要があります。
3.法定の空気環境測定はどのように行うか
特定建築物の空気環境測定は、原則として次の条件で実施します。
- 通常の使用時間中
- 各階ごと
- 居室の中央部
- 床上75cm以上150cm以下
- 2か月以内ごとに1回
CO₂、COおよび浮遊粉じんについては、1日の使用時間中の平均値を基準と比較します。
厚生労働省はCO₂の測定器として検知管方式の二酸化炭素検定器を示していますが、同程度以上の性能を持つ測定器の使用も認めています。温度計、湿度計、風速計などについても、所定の性能要件があります。
法定測定では、測定器の性能だけでなく、測定位置、時間、回数、建物の使用状況、記録方法を含めて適切に実施することが重要です。
固定式IoTセンサーが高精度であっても、設置しただけで法定測定の要件を自動的に満たすわけではありません。正式な測定については、建築物環境衛生管理技術者や測定事業者、管轄保健所へ確認してください。
4.法定測定とIoT連続監視の違い
法定測定とIoT監視は、どちらか一方を選ぶものではなく、役割を分けて利用できます。
| 比較項目 | 法定の空気環境測定 | IoTによる連続監視 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 基準への適合状況を所定の方法で確認 | 日常的な変化や異常の早期発見 |
| 測定頻度 | 原則2か月以内ごとに1回 | 数分~数十分間隔など |
| 測定位置 | 各階の代表的な居室など | 会議室、執務室、受付などへ多点配置可能 |
| 把握しやすい情報 | 測定日の代表的な状態 | 時間帯、曜日、利用人数による変化 |
| 通知 | 測定後に確認 | 閾値超過や機器オフラインを通知可能 |
| 法令上の位置付け | 所定の測定として実施 | 維持管理を補完する参考データ |
| 主な注意点 | 測定器、位置、時間、記録方法 | 校正、設置位置、通信、電源、アラート運用 |
定期的な空気環境測定と常設IoTセンサーは、異なる役割で建物管理を支えます。
例えば、法定測定時には基準内でも、昼休み後や会議中だけCO₂が高くなる可能性があります。連続監視を併用すると、そのような一時的・局所的な換気不足を見つけやすくなります。
5.IoT監視でできること・できないこと
IoT監視が役立つ場面
- 会議室の利用人数に伴うCO₂変化の確認
- 始業後や昼休み後の換気状態の確認
- 空調・換気設備の運転スケジュールの評価
- フロアや方角による温湿度差の把握
- 夜間・休日の異常温度検知
- 遠隔地にある複数施設の一元管理
- 管理値超過時のメールやアプリ通知
- CSVやAPIを利用した報告・分析
IoT監視だけでは完結しないこと
- 法令で定められた空気環境測定の自動的な代替
- 換気量不足の原因特定
- センサーの校正や精度確認
- 空調設備そのものの点検
- 建築物環境衛生管理技術者による判断
- 管轄自治体ごとの運用要件の確認
CO₂は換気状態を把握する有力な指標ですが、粒子状物質、化学物質、におい、微生物などを一つの数値で評価できるものではありません。
6.CO₂・温湿度センサーの設置位置
連続監視用センサーは、測定対象となる室内環境を代表できる場所に設置します。
基本的には、次のような場所を検討します。
- 人が通常滞在する高さ
- 会議室や執務室の代表的な位置
- 給気口や排気口から適度に離れた場所
- 直射日光が当たらない場所
- ドアの開閉による外気の影響が少ない場所
- 点検、清掃、交換を行いやすい場所
一方、次の場所では局所的な影響を受ける可能性があります。
- 給気口・排気口の直近
- 開放される窓や出入口の近く
- 人の呼気が直接当たる位置
- プリンターや発熱機器の上
- 日射を受ける壁面
- 加湿器の吹出口付近
センサーは給気口、直射日光、発熱機器、呼気の直接的な影響を避けて設置します。
法定測定の位置と、日常管理用センサーの常設位置は必ずしも同じではありません。導入時には複数点で比較し、フロアを代表できる位置と、会議室などのリスク監視位置を分ける方法が有効です。
7.CO₂アラートは対応手順とセットで設定する
建築物環境衛生管理基準のCO₂基準は1,000ppm以下ですが、IoTセンサーのアラート値を単純に1,000ppmへ設定するだけでは、実際の運用につながらない場合があります。
次の項目をあらかじめ決めておきます。
- どの測定値を通知対象にするか
- 何分間継続した場合に通知するか
- 一次対応者は誰か
- 換気設備や窓をどのように確認するか
- 混雑状況や利用人数を確認するか
- 復旧しない場合の連絡先
- センサー異常や通信断をどう区別するか
- 対応内容をどこへ記録するか
短時間の変動ですぐに通知すると、不要なアラートが増える可能性があります。一方、継続時間を長くしすぎると異常の発見が遅れます。
センサーの測定誤差も考慮し、建物の利用方法と管理方針に合わせて、予告通知と対応通知を段階的に設定すると運用しやすくなります。
8.UbiBotを活用した建物環境モニタリング
複数フロアの環境データを集約し、クラウド確認と異常通知に活用する構成例
UbiBotでは、温湿度センサー、外部CO₂センサー、ゲートウェイ、クラウドを組み合わせ、複数区画の環境データを遠隔で確認できます。
GS1-AETH1RSを使用する構成例
UbiBot GS1-AETH1RSは、本体で温度・湿度・照度を測定でき、Wi-Fiまたは有線LANを利用してクラウドへ接続できます。RS485対応の外部センサーを接続できるため、対応する外部CO₂センサーと組み合わせた固定監視を検討できます。
最大300,000件の内部記録に対応しており、一時的に上位回線が停止した場合のデータ保持にも利用できます。UbiBot GS1-AETH1RS公式製品情報
UbiBotの外部CO₂センサーには、測定範囲やインターフェースが異なるモデルがあります。P1は400~10,000ppm、P3は400~2,000ppmを主な測定範囲としており、モデルによりRS485またはAudio Plugを使用します。UbiBot外部CO₂センサー公式製品情報
導入前には、次の点を確認してください。
- 使用する本体とCO₂センサーの互換性
- RS485、Audio Plugなどの接続方式
- 必要な電源
- 測定範囲と精度
- 設置場所の通信環境
- クラウドへの送信間隔
- 校正・精度確認の方法
- 法定測定で使用する場合の適合性
多点・複数フロア監視
複数の会議室やフロアを監視する場合は、センサーを個別にインターネットへ接続する方法だけでなく、LoRaセンサーとゲートウェイで集約する構成も検討できます。
ただし、建物の壁、床、金属設備、防火扉などは無線通信に影響します。完成した建物内で通信試験を行い、センサーからゲートウェイ、ゲートウェイからクラウドという二つの通信経路を分けて確認してください。
9.導入前チェックリスト
- 建物が特定建築物に該当するか確認した
- 法定測定と日常監視の目的を分けた
- 測定対象となるフロアと居室を整理した
- CO₂・温湿度の代表測定点を決めた
- 給排気口、窓、発熱機器の影響を確認した
- センサーの測定範囲と精度を確認した
- 電源、Wi-Fi、有線LANまたはLoRa通信を確認した
- アラート値、継続時間、対応者を決めた
- 通信障害時のローカル記録を確認した
- 校正・精度確認の周期を決めた
- 法定測定の方法を建築物環境衛生管理技術者と確認した
よくある質問
CO₂が1,000ppmを一時的に超えたら、直ちに法律違反ですか
CO₂は1日の使用時間中の平均値を基準と比較することとされています。一時的な超過だけで直ちに法令違反と判断されるものではありませんが、繰り返し高くなる場合は、換気設備、外気導入量、利用人数などを確認する必要があります。
市販のCO₂モニターで法定測定できますか
製品の性能だけでは判断できません。法定測定では、測定器の性能に加えて、測定位置、時間、周期、記録方法などが定められています。管轄保健所や専門事業者へ確認してください。
IoTセンサーがあれば2か月以内ごとの測定は不要ですか
原則として不要にはなりません。IoT連続監視は日常管理の補完に有効ですが、法定測定を自動的に代替するものではありません。
CO₂センサーは会議室に何台必要ですか
一律には決められません。部屋の広さ、定員、換気方式、間仕切り、給排気口の位置によって異なります。まず代表点で測定し、場所による差が大きい場合は測定点を追加します。
温湿度も同時に監視した方がよいですか
温度と湿度は快適性だけでなく、空調運転、加湿、結露などの状態を判断するために役立ちます。CO₂と同じ時刻で記録すると、換気と空調の影響を分析しやすくなります。
センサーはどのくらいの頻度で精度確認すべきですか
要求精度、使用環境、メーカー推奨、過去の測定差に基づいて決めます。落下、移設、結露、著しい測定差があった場合は、定期周期を待たずに確認してください。
まとめ
建築物環境衛生管理基準では、CO₂は1,000ppm以下、温度は18~28℃、相対湿度は40~70%が主な管理基準です。特定建築物では、通常の使用時間中に各階の代表的な位置で、原則2か月以内ごとに空気環境を測定します。
IoTセンサーによる連続監視は、法定測定を置き換えるものではありません。しかし、会議室の利用時だけ発生するCO₂上昇、フロア間の温湿度差、換気設備の運転異常などを早期に把握するうえで有効です。
UbiBotの温湿度センサー、外部CO₂センサー、クラウド監視を組み合わせることで、複数の居室や施設を遠隔から確認し、管理値超過時の通知やデータ分析に活用できます。
まずは人の滞在時間が長い会議室や執務室で試験導入し、法定測定結果と連続データを比較しながら、設置場所とアラート運用を調整することをおすすめします。
参考資料
- 厚生労働省「建築物環境衛生管理基準について」
- 厚生労働省「特定建築物の定義に関するQ&A」
- 厚生労働省「建築物環境衛生管理技術者について」
- 建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行規則
- UbiBot GS1-AETH1RS公式製品情報
- UbiBot外部CO₂センサー公式製品情報
※法令、自治体の運用、製品仕様、対応センサーおよびクラウド機能は変更される場合があります。公開または導入前に、厚生労働省、管轄保健所および各製品の最新資料をご確認ください。