「ISO/IEC 17025対応の試験室は、温度23℃・湿度50%に保つ必要がある」と考えられることがあります。しかし、ISO/IEC 17025は、すべての試験室に共通する一律の温湿度を規定しているわけではありません。
試験室が管理すべき条件は、実施する試験・校正方法、使用する設備、試料の特性、測定不確かさ、顧客要求などによって異なります。
重要なのは、必要な環境条件を根拠に基づいて決定し、試験結果の妥当性に影響する場合は監視・制御・記録することです。管理範囲から外れた場合には、単に室温を戻すだけでなく、実施中または完了済みの試験結果への影響を評価する必要があります。
試験結果の信頼性を支える、試験室の温湿度モニタリング
要点
- ISO/IEC 17025には、全試験室共通の温湿度設定値はない
- 試験方法、設備仕様、測定不確かさなどから管理条件を決める
- 環境条件が結果の妥当性に影響する場合は監視・制御・記録する
- 管理値とアラート値は、測定器の誤差を含めて設定する
- 環境逸脱時は、試験の停止、試料保護、影響評価、記録を行う
- 温湿度センサーにも適切な校正または精度確認が必要
- IoT監視は早期発見に有効だが、導入だけでISO/IEC 17025適合になるわけではない
1.ISO/IEC 17025とは
ISO/IEC 17025は、試験所および校正機関の能力、公平性、一貫した運営に関する国際規格です。日本では、対応する国内規格としてJIS Q 17025:2018が発行されています。
公益財団法人日本適合性認定協会(JAB)は、ISO/IEC 17025に基づく試験所・校正機関の認定を実施しています。また、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)が運営するJCSSでは、校正事業者がISO/IEC 17025に適合しているかを審査し、計量法に基づく登録を行っています。
ISO/IEC 17025認定は、温湿度センサーやデータロガー単体に与えられるものではありません。試験所の要員、設備、方法、記録、計量トレーサビリティ、結果の妥当性などを含む業務全体が評価されます。
JAB「試験所・校正機関(ISO/IEC 17025)」/NITE「計量法校正事業者登録制度(JCSS)」
2.試験室の環境条件に関する基本要求
JIS Q 17025:2018の箇条6.3では、施設および環境条件について取り扱っています。
実務上のポイントは、次のように整理できます。
- 試験・校正に適した施設と環境を用意する
- 必要となる環境条件を文書化する
- 結果の妥当性に影響する場合は監視・制御・記録する
- 環境条件が結果を無効にするおそれがある場合は、活動を開始または継続しない
- 区域への立入り、汚染防止、相互干渉などを管理する
管理対象は温度と湿度だけとは限りません。
| 環境要因 | 影響を受ける可能性がある例 |
|---|---|
| 温度 | 寸法測定、質量、電気測定、分析機器、試薬 |
| 相対湿度 | 電気試験、紙・繊維、粉体、吸湿性試料 |
| 気圧 | 圧力、流量、体積、ガス濃度 |
| 振動 | 天びん、寸法測定、精密分析 |
| 電磁ノイズ | 電気・電子機器の試験 |
| 粉じん・清浄度 | 微生物、粒子、材料・半導体試験 |
| 照明・紫外線 | 色測定、光学測定、感光性試料 |
| 電源品質 | 精密計測器、恒温槽、分析装置 |
すべてを常時測定する必要があるわけではありません。試験結果への影響を評価し、管理が必要な項目を特定します。
JISの内容は、日本産業標準調査会のJIS検索から確認できます。日本産業標準調査会「JISの入手閲覧方法」
3.温湿度の管理値はどう決めるか
温湿度の管理範囲は、次の情報を基に決定します。
- 試験・校正方法に規定された条件
- JIS、ISO、IECなどの試験規格
- 測定機器メーカーが指定する使用環境
- 試料、標準物質、試薬の保管条件
- 顧客との契約条件
- 測定不確かさへの影響
- 過去の試験データと環境変動
- 試験室内の温湿度分布
例えば、試験方法が「23±2℃」を要求している場合、空調設備の設定を23℃にするだけでは十分とは限りません。
センサーの測定誤差、室内の温度分布、ドア開閉、設備の発熱、昼夜変動などを考慮し、実際の試験位置が範囲内に維持されていることを確認します。
管理範囲とアラート範囲を分ける
管理上は、試験を継続できる限界値と、限界へ達する前に対応するための警告値を分ける方法が有効です。
例として、試験方法の許容範囲が20~25℃の場合、20℃または25℃に到達してから通知するのではなく、室内変動やセンサー誤差を考慮して内側に警告値を設定します。
ただし、具体的な値は試験方法とリスク評価に基づいて決めます。一般的な推奨値を、そのまま別の試験室へ適用しないでください。
4.温湿度センサーの設置位置
センサーは、壁の空いている場所ではなく、試験結果へ影響する環境を代表できる位置に設置します。
確認すべき主な場所は次のとおりです。
- 実際に試験・校正を行う作業位置
- 標準器や重要設備の周辺
- 試料・標準物質の保管場所
- 恒温槽、乾燥機など発熱設備の周辺
- 出入口や搬入口に近い区域
- 外壁、窓、日射の影響を受ける区域
- 給気口と排気口の周辺
- 室内の高低差が大きい区域
試験室内では、日射、給気、発熱設備、ドア開閉によって温湿度分布が変化します。
給気口の直下、直射日光が当たる壁面、発熱機器の直上などは局所的な温度を示しやすいため、室内を代表する唯一の測定点には適しません。
新しい試験室やレイアウト変更後は、複数の仮設ロガーを配置して温湿度分布を確認し、その結果に基づいて常設位置を決めると効果的です。
5.測定間隔と記録内容
記録間隔も一律ではありません。環境変化の速さと、試験結果への影響を考慮して決めます。
温湿度が短時間で変化する試験室では、1時間に1回の手書き記録だけでは逸脱の発生時刻や継続時間を判断できない場合があります。連続記録を利用すると、次の情報を確認しやすくなります。
- 逸脱が始まった時刻
- 逸脱の最大値と継続時間
- 影響を受けた可能性のある試験
- 空調停止やドア開放との関係
- 条件が回復した時刻
- 同じ変動が繰り返されていないか
環境記録には、少なくとも次の情報を関連付けられるようにします。
- 測定日時
- 測定場所
- センサーまたは機器ID
- 温湿度などの測定値
- 管理範囲とアラート設定
- 試験・校正の実施時間
- 逸脱時の対応と判断
- センサーの校正・精度確認状態
6.温湿度センサーの校正と精度確認
温湿度データを試験結果の妥当性判断に使用する場合、センサーの指示値が信頼できることを確認する必要があります。
購入時の製品仕様だけでなく、次の点を管理します。
- 個体識別番号
- 測定範囲と精度
- 使用場所
- 校正または精度確認の周期
- 校正結果と測定不確かさ
- 補正値の適用方法
- 使用可否の判定
- 故障、修理、移設履歴
- 次回校正期限
計量トレーサビリティが必要な場合、JCSS登録事業者など、適切な能力を持つ校正機関へ依頼する方法があります。
ただし、すべての温湿度センサーについて一律にJCSS校正が必要という意味ではありません。要求精度、試験結果への影響、顧客要求および認定機関の要求に基づいて決定します。
日常的な基準計器との比較は、故障や大きなドリフトの早期発見に有効ですが、正式な校正と同じものではありません。
7.環境条件が逸脱したときの対応
温湿度が管理範囲を外れた場合は、数値を元に戻すだけで対応を終了しません。
ISO/IEC 17025の不適合業務管理を踏まえ、次の流れを事前に手順化します。
- アラートまたは記録から逸脱を確認する
- 必要に応じて試験・校正を一時停止する
- 試料、標準器、試薬を適切な環境へ移動または保護する
- 逸脱の開始時刻、最大値、継続時間を確認する
- 影響を受けた可能性のある試験・校正を特定する
- 方法、設備、試料、測定不確かさへの影響を評価する
- 結果を受け入れるか、再試験するかを決定する
- 必要に応じて顧客へ連絡し、報告書を訂正または回収する
- 権限者が業務再開を承認する
- 再発する場合は原因分析と是正処置を行う
環境逸脱時は、通知、試験停止、影響評価、承認後の再開までを手順化します。
すべての短時間逸脱が試験結果を無効にするとは限りません。一方、許容範囲へ戻ったという理由だけで、自動的に結果を有効と判断することも適切ではありません。
試験方法、逸脱量、継続時間、試験工程、測定不確かさを基に、技術的な影響を評価します。
8.温湿度記録システムの比較
以下は製品の優劣を示すランキングではありません。試験室の目的と要求水準により、適切な方式が異なります。
| 方式 | 主な特徴 | 適した用途 | 確認事項 |
|---|---|---|---|
| 手書き記録 | 導入が容易で目視確認を残せる | 変動が緩やかな補助区域 | 記録間の逸脱を把握しにくい |
| USBデータロガー | 独立して連続記録できる | 単一室、持出し測定、分布確認 | 回収頻度、時計、メモリ容量 |
| Wi-Fi/4G IoTセンサー | 遠隔確認、通知、多拠点管理 | 日常監視、夜間・休日の異常検知 | 通信、権限、校正、データ保存 |
| 有線・RS485監視 | 通信を安定させやすい | 固定設備、複数センサーの集中管理 | 配線、停電、システム構成 |
| BMS・中央監視 | 空調設備と統合しやすい | 大規模施設、設備制御 | 導入費用、データ粒度、変更管理 |
試験所認定への対応では、通信方式だけでなく、センサーの精度、校正、時刻、データ変更の管理、バックアップ、データ出力、障害時の記録継続を含めて評価します。
9. UbiBotを試験室の環境監視に活用する
複数の試験室をクラウドで一元監視し、異常通知と定期的な精度確認に活用する構成例
UbiBotの温湿度センサーは、試験室、機器室、試料保管室などの連続監視に利用できます。
WS1 Proによる単室・小規模監視
UbiBot WS1 Proは、温度・湿度・照度を測定し、Wi-Fiモデルまたは4G対応モデルからクラウドへデータを送信できます。
日本公式製品情報では、温度測定範囲-20~60℃、温度精度±0.2℃、湿度精度±2%RH、最大300,000件の内部記録に対応すると案内されています。アプリやメールなどによるアラートにも対応します。
Wi-Fiが安定している試験室ではWi-Fiモデル、施設側ネットワークを利用しにくい場所では4G対応モデルを検討できます。UbiBot WS1 Pro公式製品情報
GS1-AETH1RSによる固定監視
有線LANやRS485を利用した固定構成を重視する場合は、GS1-AETH1RSを選択肢として検討できます。
温湿度・照度の測定、Wi-Fi・有線LAN接続、外部RS485センサーへの対応、最大300,000件の内部記録などを備えています。UbiBot GS1-AETH1RS公式製品情報
ISO/IEC 17025運用で確認すべき点
UbiBotを試験室で使用する場合は、導入前に次の項目を確認してください。
- 必要な精度と製品仕様が一致しているか
- センサーをどの位置に設置するか
- 校正または精度確認をどのように行うか
- 測定間隔と送信間隔が適切か
- 通信停止中も必要な記録を保持できるか
- クラウド時刻と試験記録の時刻が一致しているか
- CSVなどで元データを出力できるか
- ユーザー権限と設定変更をどう管理するか
- バックアップとデータ保存期間が十分か
- アラート受信後の対応手順があるか
UbiBotは環境条件の連続監視、遠隔確認、通知を支援するツールです。UbiBot製品を設置しただけでISO/IEC 17025への適合や試験所認定が保証されるものではありません。
試験所側で用途に対する適格性を評価し、手順書、校正、データ管理、逸脱対応を含めて運用する必要があります。
10.導入手順
1.要求条件を整理する
試験方法、設備仕様、顧客要求から、管理が必要な環境項目と許容範囲を決めます。
2.温湿度分布を確認する
仮設ロガーを使用し、昼夜、空調運転、ドア開閉、設備稼働時の分布を確認します。
3.常設位置を決める
代表測定点と、高温・低温になりやすいリスク監視点を分けて配置します。
4.センサーを識別・確認する
機器ID、設置場所、精度、校正期限を台帳に登録します。
5.アラートを試験する
テスト用の閾値で通知を発生させ、担当者へ届くことを確認します。
6.通信障害を試験する
ネットワークを一時的に停止し、測定継続、ローカル保存、復旧後のデータ補完を確認します。
7.逸脱対応を模擬する
試験停止、影響範囲の特定、記録、承認までの流れを確認します。
よくある質問
ISO/IEC 17025で決められた温度・湿度はありますか
すべての試験室に共通する数値はありません。試験方法、設備仕様、試料特性、測定不確かさなどに基づいて、試験所が必要な条件を決定します。
温湿度は常時記録しなければなりませんか
必ずしもすべての区域で常時記録が必要とは限りません。ただし、環境条件が結果の妥当性へ影響し、短時間の変化も重要な場合は、連続記録が有効です。
温湿度センサーにはJCSS校正が必須ですか
一律に必須とは限りません。要求される計量トレーサビリティ、測定精度、試験結果への影響、顧客要求に基づいて判断します。
管理範囲を少し超えたら再試験が必要ですか
逸脱したという事実だけで自動的に再試験になるわけではありません。逸脱量、継続時間、試験工程、設備や試料への影響を評価し、結果の有効性を判断します。
IoTセンサーのクラウド記録だけで十分ですか
試験所の要求によって異なります。クラウド記録に加えて、機器識別、校正状態、設定変更、データ出力、バックアップ、逸脱対応との関連付けが必要になる場合があります。
センサーは試験室に1台あれば十分ですか
室内の広さ、空調方式、設備の発熱、試験位置によって異なります。導入前の温湿度分布調査に基づいて台数を決めてください。
まとめ
ISO/IEC 17025における環境条件管理では、一般的な温湿度の目安を採用するのではなく、実施する試験・校正に必要な条件を明確にすることが出発点です。
環境条件が結果の妥当性へ影響する場合は、適切な位置で監視・制御・記録し、使用するセンサーの精度と校正状態を管理します。
逸脱が発生した場合には、試験を一時停止するだけでなく、逸脱時間、影響を受けた試験、測定不確かさ、試料や設備への影響を評価し、結果の受入れまたは再試験を判断します。
UbiBot WS1 ProやGS1-AETH1RSを活用すると、試験室の温湿度を連続記録し、管理値へ近づいた段階で担当者へ通知できます。まずは重要な試験室または試料保管室で試験導入し、既存の基準計器と比較しながら、設置位置、測定間隔、アラートおよび逸脱対応を調整する方法が適しています。
参考資料
- 日本産業標準調査会「JISの入手閲覧方法」
- 日本産業標準調査会「JIS検索」
- 公益財団法人日本適合性認定協会「試験所・校正機関(ISO/IEC 17025)」
- NITE認定センター「計量法校正事業者登録制度(JCSS)」
- UbiBot WS1 Pro公式製品情報
- UbiBot GS1-AETH1RS公式製品情報
※規格、認定機関の要求、試験方法、製品仕様およびクラウド機能は変更される場合があります。公開または導入前に、JIS Q 17025の最新版、適用する試験方法、認定機関の文書および製品仕様をご確認ください。