PMフィルターのコンディショニング研究でUbiBot WS1 Proを活用|温湿度記録と測定品質

粒子状物質をフィルターに捕集し、捕集前後の質量差から濃度を求める重量法では、フィルターや捕集粒子に吸着した水分も測定値へ影響する可能性があります。

そのため、秤量前のフィルターを一定の温度・湿度環境になじませる「コンディショニング」と、その環境を継続的に記録することが重要です。

ポーランド科学アカデミー環境工学研究所などの研究チームは、PMフィルターのロボット秤量に影響する要因を検証した研究で、UbiBot WS1 Proと外部温湿度プローブTH30S-Bを使用しました。

本記事では、公開された査読論文に基づき、研究方法、WS1 Proの具体的な役割、研究結果、日本のPM2.5測定業務で参考にできるポイントを紹介します。

PMフィルターと外部温湿度プローブを設置した調整・秤量室

PMフィルターのコンディショニングと室内温湿度記録のイメージ

研究概要

項目 内容
論文名 Influence of environmental conditions, operational procedures, and filter material on robotic gravimetric weighing of particulate matter filters
掲載誌 Scientific Reports
公開年 2026年
DOI 10.1038/s41598-026-42411-4
主な研究機関 ポーランド科学アカデミー環境工学研究所、シレジア工科大学、ワルシャワ生命科学大学ほか
観測場所 ポーランド・ザブジェ市の都市バックグラウンド観測地点およびフィルター調整・秤量室
主な観測・分析機器 PM捕集装置、UMA 2.5Y.FCロボット秤量システム、MYA 5.4Y.F手動マイクロ天秤、温湿度センサー
UbiBot製品 UbiBot WS1 Pro、TH30S-B外部温湿度プローブ
WS1 Proの役割 フィルターのコンディショニングおよび秤量を行う室内の温度・相対湿度を5分間隔で記録
主な研究成果 50枚のガラス繊維・石英繊維・PTFEフィルターを評価。研究で設定された温湿度範囲では、ロボット秤量値への統計的に有意な影響は確認されず、ロボット秤量と手動秤量の結果にも整合性が示された

※本研究は複数機関による共同研究です。本記事では、PMフィルターのコンディショニング工程と、UbiBot WS1 Proによる調整・秤量室の温湿度記録を中心に紹介します。

1.研究の背景と目的

重量法では、大気中の粒子状物質をフィルターへ捕集し、捕集前後の質量差からPMの質量を求めます。

しかし、フィルターへ付着するのは粒子だけではありません。PMには吸湿性を持つ成分が含まれることがあり、周囲の相対湿度によってフィルターや捕集粒子の水分量が変化する可能性があります。

フィルターの微小な質量差を測定する際には、次の要因も結果へ影響します。

  • フィルター材質による吸湿特性の違い
  • 捕集粒子が保持する水分
  • 調整室と秤量装置内部の環境差
  • 静電気
  • 気流や振動
  • フィルターの取り扱い手順
  • 天秤の安定性
  • 作業者による手順の違い

研究チームは、温湿度、秤量手順、フィルター材質などの条件を変え、ロボット秤量結果への影響と、手動秤量との整合性を評価しました。

2.実験・観測方法

大気中PMの捕集、フィルター調整、精密秤量、質量比較の流れ

PM捕集からコンディショニング、秤量、質量比較までの基本工程

使用されたフィルター

研究では、直径47mmのフィルター50枚が使用されました。

対象となった主な材質は次の3種類です。

  • Whatman GF/Aガラス繊維フィルター
  • QMA石英繊維フィルター
  • PTFEフィルター

材質によって繊維構造、表面特性、吸湿性、静電特性が異なるため、同じ温湿度条件でも挙動が異なる可能性があります。

大気中粒子の採取

フィルターによる大気採取は、2022年11月24日から2023年2月6日にかけて、ポーランド・ザブジェ市の都市バックグラウンド地点で実施されました。

採取期間が冬季に当たるため、研究では暖房期における都市大気中の粒子が対象となっています。

フィルターのコンディショニング

フィルターは、大気採取前と採取後の両方で48時間コンディショニングされました。

調整室の目標条件は次のとおりです。

項目 設定
温度 21℃
相対湿度 45%RH
調整時間 48時間
温湿度記録間隔 5分

この調整・秤量室の温度と相対湿度を記録するため、UbiBot WS1 ProとTH30S-B外部温湿度プローブが使用されました。

ロボット秤量条件

ロボット秤量チャンバーでは、温度3条件と相対湿度3条件を組み合わせた9条件が検証されました。

温度 相対湿度
18℃ 35%RH、45%RH、55%RH
21℃ 35%RH、45%RH、55%RH
24℃ 35%RH、45%RH、55%RH

フィルター質量は、表示分解能1µgのロボット秤量システムと手動マイクロ天秤で測定されました。

3.UbiBot WS1 Proの具体的な役割

この研究におけるWS1 Proの役割は、フィルターをコンディショニング・秤量する室内の温度と相対湿度を継続的に記録することです。

各装置の役割は、次のように区別されます。

作業 使用された機器・方法
調整・秤量室の温湿度記録 UbiBot WS1 Pro+TH30S-B
ロボット秤量チャンバー内の環境確認 装置内蔵センサーと参照用温湿度センサー
フィルター質量の測定 ロボット秤量システム、手動マイクロ天秤
PM質量の算出 捕集前後のフィルター質量差
PM濃度の算出 質量差と吸引空気量から算出
3種類のPMフィルターと調整室を監視する外部温湿度プローブ

ガラス繊維・石英繊維・PTFEフィルターと室内温湿度記録

WS1 Proは、PM濃度を直接測定した機器ではありません。また、フィルター質量を測定した天秤でも、ロボット秤量チャンバーを制御した機器でもありません。

主な役割は、次の3点です。

  1. コンディショニング中の室内温湿度を記録する
  2. 48時間の調整期間に発生した変動を確認できるようにする
  3. 秤量データを取得した環境条件の説明可能性を高める

瞬間的な温湿度測定だけでは、夜間の空調停止や一時的な湿度上昇を把握できない場合があります。5分間隔の連続記録によって、調整期間全体の環境履歴を確認できます。

4.研究結果

研究で設定された試験範囲では、ロボット秤量チャンバー内の温度・湿度変化によるフィルター質量への統計的に有意な影響は確認されませんでした。

また、ロボット秤量と手動秤量の結果にも統計的な整合性が示されています。

ただし、この結果を「PMフィルターの秤量では温湿度管理が不要」と解釈することはできません。

今回の結果は、次の条件下で得られたものです。

  • 管理された秤量装置
  • 18~24℃の試験温度範囲
  • 35~55%RHの試験湿度範囲
  • 指定されたフィルター材質
  • 規定されたコンディショニング手順
  • 継続的な環境記録
  • 研究で定められた統計解析

温湿度条件が記録されていたからこそ、秤量結果と環境条件の関係を検証できます。

WS1 Proによる環境記録は研究結果を直接生み出す測定ではありませんが、結果の再現性と説明可能性を支える補助的な記録として活用されました。

ロボットマイクロ天秤でPMフィルターを自動秤量する研究室

ロボット秤量システムによるPMフィルターの自動秤量イメージ

5.研究から分かること

温湿度は連続して記録する

コンディショニング開始時と終了時だけ温湿度を確認しても、その間に発生した変動は把握できません。

連続記録を行うことで、次の変化を確認しやすくなります。

  • 夜間や休日の空調停止
  • 扉開放による一時的な変動
  • 加湿・除湿設備の異常
  • 空調設定の変更
  • 停電
  • 通信障害
  • 規定範囲から外れた時間

室内と装置内部を分けて監視する

調整室の温湿度が安定していても、ロボット天秤のチャンバー内部が同じ条件とは限りません。

今回の研究でも、WS1 Proは調整・秤量室を記録し、ロボット秤量チャンバー内部は別のセンサーで確認されました。

したがって、室内監視用データロガーだけで装置内部の環境まで保証することはできません。

フィルター材質を記録する

ガラス繊維、石英繊維、PTFEでは、材質、構造、吸湿性、静電特性が異なります。

フィルターの型式、ロット、材質、調整条件を秤量記録と関連付けて管理すると、測定差の原因を調査しやすくなります。

6.日本のPM2.5測定との関係

環境省の「大気中微小粒子状物質(PM2.5)測定方法暫定マニュアル」では、フィルター調整・秤量条件として次の内容が示されています。

  • 温度:21.5±1.5℃
  • 相対湿度:50±5%RH
  • コンディショニング時間:48時間以上
  • 調整と秤量は原則として同じ環境で実施
  • 秤量室の温湿度を連続的に監視・記録
  • PTFEフィルターでは静電気対策を実施

一方、今回の研究では21℃、45%RHを目標条件としています。

両者は近い条件ですが、完全に同じ基準ではありません。国内の公定測定や受託分析では、研究論文の設定値をそのまま採用せず、適用する法令、測定マニュアル、委託仕様書、標準作業手順書を優先する必要があります。

この研究から日本の分析施設が参考にできるのは、特定の設定値だけではなく、次の管理方法です。

  • 捕集前後で同じ調整手順を使用する
  • 調整時間と温湿度履歴を記録する
  • 調整室と秤量装置内部を分けて確認する
  • フィルター材質を記録する
  • 環境記録と秤量データを関連付ける
  • 逸脱時の再調整・再秤量条件を決める

7.研究室でUbiBotを使用する際のポイント

プローブの設置位置

外部温湿度プローブは、フィルターが置かれる環境を代表できる位置へ設置します。

次の場所は局所的な値を測定する可能性があるため、代表測定点としては注意が必要です。

  • 空調吹出口の直下
  • 加湿器・除湿器の近く
  • 出入口の近く
  • 窓や外壁の近く
  • 日射を受ける場所
  • 発熱機器の直上
  • 天秤の排熱が直接当たる場所

設置位置を変更した場合は、変更日時と理由を記録します。

記録間隔

今回の研究では5分間隔が使用されましたが、すべての研究室で5分が最適とは限りません。

記録間隔は、次の条件を考慮して決定します。

  • 室内環境が変化する速さ
  • 逸脱を検出するまでの許容時間
  • データ保存容量
  • 通信頻度
  • 電池消費
  • 品質管理手順
  • 適用する規格や試験方法

校正と精度確認

研究、品質管理、公的測定へ使用する場合は、製品の公称精度だけでなく、校正方法、校正周期、トレーサビリティの要否を確認します。

日常的な比較確認と、正式な校正は同じではありません。要求される測定品質に応じて、基準計器との比較や外部校正を計画してください。

通信障害への対策

クラウドを利用する場合は、通信停止中の記録方法も確認します。

  • 通信停止中も測定を継続できるか
  • 本体内部へデータを保存できるか
  • 通信復旧後に履歴が補完されるか
  • 元の測定時刻が保持されるか
  • 欠測や重複が発生しないか
  • オフライン状態を担当者へ通知できるか

逸脱時の対応

温湿度が規定範囲を外れた場合に、アラートを受信するだけでは十分ではありません。

標準作業手順書では、少なくとも次の流れを決めておきます。

  1. 逸脱の開始時刻と継続時間を確認する
  2. 対象となるフィルターを特定する
  3. 空調・加湿・除湿設備を点検する
  4. 再コンディショニングの要否を判断する
  5. 再秤量またはデータ採用可否を決定する
  6. 原因、判断、是正措置を記録する

8.UbiBotを活用できる研究・分析環境

WS1 Proと対応する外部プローブを組み合わせた環境記録は、次の用途で検討できます。

  • PMフィルターの調整室・秤量室
  • 微量天秤を設置した研究室
  • 分析試料や標準品の保管場所
  • 恒温室・恒湿室の補助監視
  • 複数研究室の温湿度一元管理
  • 夜間・休日を含む連続記録
  • 温湿度履歴のCSV出力・共有
  • 設定範囲から外れた際の遠隔通知

UbiBot WS1 Proは、対応する外部センサーの接続、ローカル記録、クラウド上でのグラフ確認や通知設定に対応します。

ただし、WS1 Proは次の機器を代替するものではありません。

  • PM濃度測定器
  • フィルター秤量用マイクロ天秤
  • 装置内部の制御センサー
  • 校正済み標準温湿度計
  • 人命安全用警報器

研究目的、要求精度、規格、校正、データ完全性の要件に応じて、適切な測定機器と組み合わせて使用する必要があります。

よくある質問

WS1 ProでPM2.5濃度を測定できますか

今回の研究でWS1 ProはPM2.5濃度を測定していません。フィルターをコンディショニング・秤量する室内の温度と相対湿度を記録するために使用されました。

WS1 Proでフィルター質量を測定できますか

測定できません。フィルター質量はロボット秤量システムおよび手動マイクロ天秤で測定されました。

フィルターを48時間置けば調整は完了しますか

時間だけでなく、その間の温度と相対湿度が規定範囲内に維持されていることが重要です。適用する測定方法や標準作業手順書に従って判断してください。

室温が安定していれば湿度記録は不要ですか

湿度も記録する必要があります。フィルターや捕集粒子は水分を吸着する可能性があり、温度が安定していても相対湿度の変化が質量へ影響する場合があります。

WS1 Proだけで秤量環境を保証できますか

WS1 Proは室内環境の履歴確認に利用できますが、天秤チャンバー内部の温湿度、天秤の校正、静電気、振動、気流まで保証するものではありません。必要に応じて装置内蔵センサーや参照計器を併用します。

研究と日本のPM2.5測定では調整条件が同じですか

完全には同じではありません。研究では21℃、45%RHが目標条件でしたが、環境省の暫定マニュアルでは21.5±1.5℃、50±5%RHが示されています。国内業務では適用する測定方法を優先してください。

まとめ

PMフィルターの重量測定では、捕集前後のフィルターを一定の温湿度環境でコンディショニングし、その環境履歴を残すことが測定品質の基礎になります。

今回の研究では、UbiBot WS1 ProとTH30S-B外部温湿度プローブが、フィルター調整・秤量室の温度と相対湿度を5分間隔で記録するために使用されました。

WS1 ProはPM濃度やフィルター質量を測定した機器ではありません。一方、調整環境を継続的に記録し、秤量結果がどのような条件で取得されたのかを確認できる状態にするうえで、補助的な役割を担いました。

研究室へ環境モニタリングを導入する際は、センサー精度だけでなく、設置位置、記録間隔、ローカル保存、校正、装置内部との役割分担、通信障害対策、逸脱対応まで含めて設計することが重要です。

参考資料

  1. Scientific Reports「Influence of environmental conditions, operational procedures, and filter material on robotic gravimetric weighing of particulate matter filters」
  2. UbiBot Academic Research「Particulate Matter Filter Conditioning Monitoring」
  3. 環境省「大気中微小粒子状物質(PM2.5)測定方法暫定マニュアル」
  4. UbiBot WS1 Pro日本公式製品情報
  5. UbiBot TH30S-B日本公式製品情報

※論文で使用された機器構成と、現在販売されている製品仕様・クラウド機能は異なる場合があります。公開または導入前に、最新仕様、対応する外部プローブ、校正条件をご確認ください。

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