医薬品倉庫では、空調設備の設定温度が適切でも、保管場所のすべてが同じ温度になるとは限りません。
出入口、外壁、天井付近、空調の吹出口、棚の奥、荷物が密集した区域などでは、局所的に温度が高くなったり低くなったりする可能性があります。
温度マッピングは、複数の温度センサーを倉庫内に配置して温度分布を調査し、医薬品の保管に適した区域と、継続監視すべき測定点を決めるための作業です。
本記事では、日本のGDPガイドラインを踏まえ、温度マッピングの実施手順、センサー配置、結果の評価、日常監視への移行について解説します。
医薬品倉庫の温度マッピングでは、複数の高さと区域で温度を測定し、保管環境のばらつきを確認します。
要点
医薬品倉庫の温度マッピングでは、次の点が重要です。
- 倉庫の使用開始前に温度分布を確認する
- センサー台数を床面積だけで決めない
- 水平方向だけでなく、高さ方向の温度差も測定する
- 出入口、外壁、空調設備などのリスク区域を含める
- 校正状態を確認した測定器を使用する
- 通常運用に近い条件で一定期間記録する
- ホットスポットとコールドスポットを特定する
- マッピング結果に基づいて日常監視点を決める
- 設備や保管条件を大きく変更した場合は再評価する
温度マッピングは一度実施して終わりではありません。倉庫の設備、棚配置、保管量、空調運転などが変われば、既存の評価が現在の温度分布を表さなくなる可能性があります。
1.医薬品倉庫の温度マッピングとは
温度マッピングとは、倉庫や保管庫の複数箇所で温度を同時に記録し、空間内の温度分布と時間変化を確認する調査です。
主な目的は次のとおりです。
- 保管区域が要求温度を維持できるか確認する
- 最も温度が高くなりやすい場所を特定する
- 最も温度が低くなりやすい場所を特定する
- 空調、出入口、外壁、棚、荷物の影響を評価する
- 日常監視用センサーの設置場所を決める
- 温度逸脱時に影響範囲を判断するための情報を得る
厚生労働省の「医薬品の適正流通(GDP)ガイドライン」では、保管場所の使用前に適切な条件で温度マッピングを行い、結果に従って温度モニタリング機器を適切な場所に設置することが示されています。厚生労働省「医薬品の適正流通(GDP)ガイドライン」
2.温度マッピングと日常監視の違い
温度マッピングと日常的な温度モニタリングは目的が異なります。
| 項目 | 温度マッピング | 日常温度モニタリング |
|---|---|---|
| 主な目的 | 倉庫全体の温度分布を把握する | 運用中の温度状態を継続確認する |
| センサー数 | 一時的に多点配置する | 重要地点を中心に常設する |
| 実施時期 | 使用開始前、変更後、再評価時 | 倉庫の運用中 |
| 評価内容 | 場所・高さ・時間による温度差 | 管理値からの逸脱と履歴 |
| 主な成果物 | マッピング報告書、温度分布図 | 日常記録、アラート履歴、逸脱記録 |
日常監視用センサーを便利な壁面に設置するだけでは、温度マッピングの代わりにはなりません。
一方、マッピング期間中に多数のデータを取得しても、その結果を日常監視点や保管区域の見直しに反映しなければ、調査の目的を十分に達成できません。
3.温度マッピングを実施するタイミング
GDPガイドラインでは、保管場所の使用前に温度マッピングを実施することが示されています。
その後も、リスク評価の結果や重要な変更に応じて再マッピングを検討します。
代表的な実施タイミングは次のとおりです。
- 新しい倉庫や保管室を使用する前
- 空調設備を新設・交換した後
- 棚や間仕切りの配置を大きく変更した後
- 倉庫の増築や保管区域の変更後
- 保管量や荷姿が大きく変わった場合
- 説明できない温度差や逸脱が発生した場合
- リスク評価または定期レビューで必要と判断した場合
再マッピングの周期を一律に決めるのではなく、設備の安定性、過去の結果、季節差、変更内容、取り扱う医薬品のリスクに基づいて設定します。
4.実施前にマッピング計画書を作成する
温度センサーを配置する前に、目的、方法、判定基準を記載した計画書を作成します。
計画書に含めたい主な項目は次のとおりです。
- 対象施設と保管区域
- 対象となる保管温度条件
- 倉庫の平面図と棚配置
- 空調の吹出口・吸込口
- 出入口、外壁、窓、天井、熱源
- センサーの台数と設置位置
- センサーIDと校正情報
- 測定間隔と実施期間
- 空調の運転条件
- 空庫・積載状態などの試験条件
- 扉開閉や入出庫作業の扱い
- データ欠損時の処理
- 合否判定基準
- 逸脱発生時の対応
- 実施者、確認者、承認者
試験を開始してから有利な条件へ変更しないように、判定基準とデータ処理方法を事前に決めておくことが重要です。
5.センサー配置はリスクに基づいて決める
GDPガイドラインは、すべての倉庫に共通するセンサー台数や設置間隔を示していません。台数と位置は、施設の構造とリスクに基づいて決定します。
基本となる配置
倉庫の長さ、幅、高さを考慮し、三次元的に温度分布を確認します。
平面上へ均等に配置するだけでなく、可能な範囲で次の高さを含めます。
- 床面または最下段付近
- 医薬品を保管する代表的な高さ
- 最上段または天井に近い保管位置
暖気は上方に、冷気は下方に偏る場合がありますが、空調方式、気流、棚、荷物の状態によって分布は変わります。高さ方向の測定を省略せず、実測結果で確認してください。
優先して確認したい場所
- 搬入口・出荷口・人用扉の近く
- 外壁、窓、屋根の影響を受ける場所
- 空調吹出口の直近と下流側
- 空調の吸込口・還気口付近
- 棚の最上段と最下段
- 長い棚列の奥や空気が滞留しやすい場所
- 柱、間仕切り、パレットで気流が遮られる場所
- 照明、機械、制御盤などの熱源付近
- 過去に温度差が確認された場所
- 一時保管区域、検品区域、処分保留区域
センサーを空調の風が直接当たる場所だけに設置すると、倉庫全体より低い温度を記録する可能性があります。反対に、出入口だけでは通常の保管環境を代表できません。
代表点とリスク点を組み合わせて配置します。
出入口、外壁、空調設備、棚の上下など、温度差が生じやすい場所を含めてセンサーを配置します。
6.どの条件で測定するか
温度分布は、季節、積載量、空調運転、扉の開閉などによって変化します。
マッピングでは、対象倉庫の運用を代表できる条件を選びます。
- 空庫または低積載状態
- 通常の積載状態
- 高積載状態
- 通常の入出庫作業
- 扉開閉の多い時間帯
- 夜間や休日
- 夏季・冬季など外気条件が厳しい時期
- 空調の通常運転と霜取り運転
- 必要に応じた停電・設備停止時の回復試験
すべての条件を一度に試験する必要があるとは限りません。どの条件を対象とするかは、取り扱う医薬品、施設構造、過去のデータ、品質リスクに基づいて決定します。
測定期間も一律ではありません。日周期、空調運転、入出庫作業、休日を含め、温度変動を評価できる期間を計画書で設定してください。
7.温度ロガーの校正と時刻を確認する
GDPガイドラインでは、環境の制御・監視に使用する機器について、リスクと要求精度に基づく間隔で校正し、国家計量標準へのトレーサビリティを確保することが示されています。
温度マッピング前には次の点を確認します。
- 各ロガーの識別番号
- 校正有効期限
- 校正した温度点
- 測定範囲と精度
- 記録間隔
- 時刻とタイムゾーン
- 電池残量
- 内部記録容量
- データ出力方法
- マッピング前後の精度確認
多数のロガーを使用する場合、時刻がずれていると、空調停止や扉開放による変化を正しく比較できません。すべてのロガーの時刻をそろえ、開始・終了時刻を記録します。
メーカー仕様に精度が記載されていることと、特定の機器についてトレーサブルな校正結果が得られていることは別です。GDP運用で必要な校正内容を品質部門と確認してください。
8.測定データの評価方法
測定後は、各測定点について次の項目を確認します。
- 最低温度
- 最高温度
- 平均温度
- 管理範囲を外れた時間
- 温度変化の発生時刻
- 周辺測定点との温度差
- 扉開閉や空調運転との関係
- データ欠損、通信異常、機器異常
最も高温になりやすい場所をホットスポット、最も低温になりやすい場所をコールドスポットとして特定します。
ただし、単純な最高値・最低値だけで決めるのではなく、繰り返し発生するか、医薬品が実際に保管される位置か、扉開閉など一時的な作業によるものかを確認します。
基準からの逸脱が見つかった場合は、次の対応を検討します。
- センサーの異常や設置不良を確認する
- 空調、扉、棚、荷物などの原因を調査する
- 対象区域への医薬品保管を制限する
- 空調や棚配置を改善する
- 改善後に必要な再試験を行う
- 逸脱、調査、是正措置、承認結果を記録する
GDPガイドラインでは、定めた手順からの逸脱を記録し、必要な是正措置・予防措置(CAPA)を行うことが示されています。
温度マッピングは、計画、機器確認、設置、測定、解析、報告・承認の順に実施します。
9.報告書に記載する内容
温度マッピング終了後は、計画と結果を報告書としてまとめます。
- 目的と対象区域
- 実施日と環境条件
- 倉庫の図面とセンサー配置
- 使用機器と校正情報
- 測定間隔と測定期間
- 空調・扉開閉・入出庫の記録
- 各測定点の最低・最高・平均温度
- 温度推移グラフ
- 温度分布図
- データ欠損と逸脱
- ホットスポット・コールドスポット
- 使用可能な保管区域
- 日常監視点の選定根拠
- 改善事項とCAPA
- 結論、確認、承認
GDPガイドラインでは、適格性評価・バリデーションの報告書に結果をまとめ、逸脱についてコメントし、適切な職員が承認することが求められています。
10.マッピング結果を日常監視へ反映する
温度マッピングの最終目的は、温度分布図を作ることではありません。結果に基づき、日常監視の仕組みを改善することです。
常設センサーの候補には、次の測定点が挙げられます。
- 継続的に最も高温となる場所
- 継続的に最も低温となる場所
- 外気や扉開閉の影響を受けやすい場所
- 代表的な保管区域
- 特に重要な医薬品の保管区域
高温側と低温側の両方を監視する必要があるかは、医薬品の保管条件とリスク評価によって決めます。
アラートには、温度値だけでなく、継続時間、通知先、夜間対応、エスカレーション、通信断、電池残量低下も設定します。警報が実際に担当者へ届くか、定期的にテストすることも重要です。
11.UbiBotを温度マッピングと日常監視に活用する方法
マッピング結果から選定した重要地点を常設センサーで監視し、温度履歴とアラートを遠隔確認します。
小・中規模倉庫:WS1 Pro
UbiBot WS1 Proは、温度・湿度・照度を測定し、Wi-Fiまたは対応モデルのモバイル通信を介してクラウドへデータを送信できます。
日本公式製品情報では、内蔵温度センサーの測定範囲-20~60℃、代表精度±0.2℃、内部メモリ最大30万件に対応しています。外部温度センサーやPT100温度プローブも接続できます。UbiBot WS1 Pro公式製品情報
複数台を仮設して温度分布を確認する用途や、マッピング後の重要地点をクラウドで継続監視する構成を検討できます。
大型・多区画倉庫:WS1Pro-L+GW1
測定点が多い大型倉庫では、LoRa対応のWS1Pro-LとGW1ゲートウェイを利用する方法があります。
WS1Pro-Lは、温度・湿度・照度の測定、ローカル記録、外部センサー接続に対応し、LoRa通信でGW1へデータを送信します。多数の測定点を配線せずに配置したい倉庫と親和性があります。UbiBot WS1Pro-L公式製品情報/UbiBot GW1公式製品情報
ただし、無線通信距離は、棚、金属壁、医薬品、パレット、車両などの影響を受けます。完成した倉庫と通常の積載状態で通信試験を行ってください。
冷蔵・低温区域:外部プローブ
低温区域では、ロガー本体を安定した場所に置き、外部温度プローブのみを測定区域へ設置する構成も検討できます。
UbiBotのMicro USB温度プローブは-55~125℃、PT100温度プローブは-200~400℃の測定範囲が公開されています。UbiBot Micro USB温度プローブ/UbiBot PT100温度プローブ
GDP運用での注意点
UbiBotは、温湿度データの記録、可視化、遠隔確認、アラート、複数地点の一元管理を支援します。
一方、UbiBot機器を設置するだけでGDPへの適合が保証されるわけではありません。実際の運用では、次の項目を品質システムの中で評価してください。
- 個々の測定器に必要な校正とトレーサビリティ
- コンピュータ化システムの検証またはバリデーション
- ユーザー権限とデータ管理
- 時刻同期とデータ完全性
- データ保存期間と出力方法
- 通信障害時のローカル記録
- アラート試験と対応記録
- 変更管理、逸脱管理、CAPA
12.導入前チェックリスト
- 対象区域と保管条件を明確にした
- 平面図、棚、空調、出入口を確認した
- 高さ方向を含むセンサー配置を作成した
- 各センサーのIDと校正状態を確認した
- 測定間隔と実施期間を事前に決めた
- 季節・積載・作業条件を検討した
- データ欠損時の扱いを決めた
- ホットスポットとコールドスポットを評価した
- 日常監視点の選定根拠を記録した
- アラートと通信障害を試験した
- 報告書を責任者が確認・承認した
- 再マッピングの条件を手順書に定めた
よくある質問
センサーは何メートル間隔で設置すればよいですか
GDPガイドラインにすべての倉庫へ共通する間隔は示されていません。倉庫の広さ、高さ、棚、空調、出入口、外壁、保管品、過去の温度差をリスク評価し、必要な台数と位置を決めます。
温度マッピングは何日間行う必要がありますか
一律の期間では決められません。空調の運転周期、昼夜、入出庫作業、休日、外気条件など、対象倉庫の温度変動を評価できる期間を設定します。
空の倉庫と荷物を入れた倉庫の両方で必要ですか
棚や荷物は気流と熱容量に影響します。空庫・積載状態のどちらを対象にするか、または両方を評価するかは、実際の運用と品質リスクに基づいて決定してください。
マッピング後もすべてのセンサーを常設しますか
必ずしもすべてを常設する必要はありません。マッピング結果から、ホットスポット、コールドスポット、代表点などを選び、日常監視用センサーを配置します。
無線センサーを温度マッピングに使用できますか
必要な測定範囲、精度、校正、記録間隔、時刻同期、データ完全性を満たし、倉庫内で通信試験を行えば利用を検討できます。通信が不安定な場合に備え、ローカル記録の有無も確認してください。
温度マッピングは毎年必要ですか
すべての倉庫に一律で毎年実施するとは限りません。設備変更、棚配置変更、説明できない温度逸脱、季節差、定期的なリスクレビューなどに基づいて再実施時期を決定します。
まとめ
医薬品倉庫の温度マッピングは、倉庫内の温度分布を可視化し、医薬品を安全に保管できる区域と日常監視点を決めるための重要な工程です。
センサーを均等に並べるだけでなく、出入口、外壁、空調、棚、高さ、積載状態などを考慮し、代表点とリスク点を組み合わせて配置します。
UbiBot WS1 ProはWi-Fi・対応モデルのモバイル通信を利用した監視、WS1Pro-LとGW1は大型倉庫でのLoRa多点監視に適した構成です。外部温度プローブを組み合わせれば、冷蔵・低温区域にも測定範囲を拡張できます。
導入時には、製品仕様だけで判断せず、校正、時刻同期、データ保存、システム検証、アラート試験、逸脱対応を含めて品質システムへ組み込んでください。
参考資料
- 厚生労働省「医薬品の適正流通(GDP)ガイドライン」
- 日本医薬品卸売業連合会「医薬品の適正流通(GDP)ガイドライン」解説資料
- UbiBot WS1 Pro公式製品情報
- UbiBot WS1Pro-L公式製品情報
- UbiBot LoRaゲートウェイGW1公式製品情報
- UbiBot Micro USB温度プローブ公式製品情報
- UbiBot PT100温度プローブ公式製品情報
※GDPへの適合性、校正要件、バリデーション範囲、記録保存期間は、事業者の品質システム、取り扱う医薬品、契約上の要件、所管当局の指導によって異なります。導入前に品質保証部門および関係機関へご確認ください。